絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」9
Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 9
MIDI:フォスター 「夢路より」
S. C. Foster,
Beautiful Dreamer.
おはなし9
ピーター・パンについて、お母さんやおばあさんに、子どももの頃、ピーター・パンを知っていましたかと尋ねたら、きっとどちらも「知っていますよ」とおっしゃるでしょう。このことから考えても、ピーターはとても年をとっています。けれど本当はピーターはいつも同じ年齢なのです。
ピーターの年齢はいつまでたっても“生後1週間”で、生まれたのはずっと昔なのに、一度も誕生日を迎えたこともなく、これからもないでしょう。
それはピーター・パンが生まれて7日目に、人間になることをやめてしまったからです。ピーターは、窓から逃げ出して、ケンジントン公園に戻ってきてしまったのです。
赤ん坊の中で逃げようとしたのはピーターだけだと思われる方がいたら、それは自分の赤ん坊時代をすっかり忘れてしまった証拠です。
子どもが頭に手をあてて考えたら、幼い頃木のてっぺんに戻りたいと思ったことや、お母さんが眠ったら逃げ出してやろうと考えたことを、きっと思い出すでしょう。
ピーター・パンが逃げ出した時、ちょうど窓には邪魔な格子がはまっていませんでした。窓からはずっと遠くに木々がたくさん茂っているのが見えて、ピーターはあれはケンジントン公園にちがいないと思いました。
それを見るとピーターは、自分が寝巻きを着た赤ん坊であることをすっかり忘れてしまい、家々の真上をケンジントン公園に向かって飛び立ってしまいました。
ピーターには翼がないのにどうして飛べたのか不思議ですが、翼のあった肩のところがむずむずしたのです。ですから、ピーターのように勇敢で自分は飛べると信じきっってさえいたら、誰でも飛ぶことができるのかもしれません。