絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」8
Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 8

MIDI:ドビュッシー 「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」
Claude Debussy, Golliwogg's cake-walk.





 
おはなし8

 前にも書きましたが、ケンジントン公園は広く、これまでお話ししてきた場所を、1日でまわるのは無理で、本当ならソルフォードじいさんのように、ベンチがあるたびに休まなくてはならなかったでしょう。
 ソルフォードというのは、そのおじいさんの本当の名前ではなくて、この人が生まれ故郷のソルフォードという美しい町のことばかり話していたので、そう呼ばれるようになったのです。
 ソルフォードじいさんは気難しいおじいさんで、誰かソルフォードについて知っている人に出会わないかと、1日じゅうこの公園のベンチからベンチへと尋ねてまわっていました。
 ある時、公園にこのソルフォードの町で一度だけ土曜日から日曜日まで過ごしたことのある人が現れました。この人も老人で、とても内気で、おとなしい人で、いつも帽子の中に自分の住所を書いた紙を入れていて、ロンドンのどんな所に行くにもまず中央郵便局に行って、そこを出発点にしていました。
 この老人がソルフォードじいさんの所に連れていかれて、土曜日から日曜日までの話をした時、ソルフォードじいさんがどんなに喜んで、この老人に飛びついたことか、それは素晴らしいできごとでした。
 2人の老人はすっか仲良しになりました。たいがいは、ソルフォードじいさんの方が多くおしゃべりをして、相手のおじいさんの上着をしっかりつかまえて、放さないようにしていたことは、申すまでもありません。