| 
 絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」37
 Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 37
 
 MIDI:チャイコフスキー 『子供のためのアルバム』より 「甘い夢」
 P. I. Tchaikovsky sweet dreams from "Album for the young".
 
 
  
 
  おはなし37
 
 
 
                          
                            
                              | 五時はもうすぐです。何も知らないばあやは早足になって、公園を出ようとしました。 「今日でしょう?」
 ばあやの後に早足でついていきながら、メイミーは兄さんにたずねました。トニーはぐっと息を飲んでからうなずきました。
 メイミーの顔は興奮して輝いていましたが、トニーの方はとても暗い顔をしていました。
 「ばあやにみつかもしれないよ。ぼく、できそうにないよ」
 これから何が起こるか分からないのに、おにいちゃんはばあやのほかは何もこわがっていないんだと、メイミーはますます兄を尊敬しました。
 そこでメイミーは、ばあやに聞こえるよう、大声で言いました。
 「おにいちゃん、門のところまで、きょうそうしましょう!」
 そして小声で「こうすれば、かくれられるでしょう」と言いました。そして二人は駆け出しました。
 トニーはあっさり妹を引き離し、それどころか今までで一番早く走っていきました。
 きっとかくれる時間をかせぐためね。すごいゆうかんだわと、メイミーは感心しました。
 ところがすぐに、おそろしいショックが訪れました。メイミーの崇拝する英雄はどこかに隠れるどころか、一気に門を走りぬけてしまったのです。
 メイミーはあまりの情けなさに涙もでませんでした。そして世の中の意気地なしの臆病者に対する軽蔑が胸いっぱいにこみ上げてきて、聖ガヴァー井戸
                              (St Gover's Well) に駆け寄り、そこに身を隠しました。トニーの代わりでした。
 
 
 |  
 
 |