絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」14
Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 14

MIDI:フォーレ ドリー組曲より 子守歌(ベルスーズ)
Franz Joseph Haydn : Gabriel Fauré Berceuse from "Dolly".





 
おはなし14

 ピーターは、公園中の妖精も鳥も、ピーターを避けていることに気付きましたが、まだ人間であるということには気付いていませんでした。
 そこでピーターは、蛇形池の中にある鳥の島まで飛んでいき、賢いカラスのソロモンじいさんをたずねました。

 島で鳥たちはみんな寝ていましたが、ソロモンじいさんだけは起きていて、ピーターの冒険談に耳を傾けてくれました。そして、ピーターになぜそうなったのか、その訳を話してくれたのです。
「嘘だと思うのなら、お前のねまきを見てごらん?」
 ピーター・パンはおどろいて自分のねまきを見つめ、今度は羽をさかだてようとしました。けれども背中には、さかだてる羽なんて1本も残っていませんでした。そしてやっと、自分をとてもかわいがってくれた女の人のことを思い出しました。
「ぼく、お母さんのところへかえる」
 けれど、ソロモンじいさんは言いました。
「そうはいかないんだよ。今日かぎりで飛ぶ力は消えて、もう二度と飛ぶことはできなくなってしまうんだ。もうこの島に住むよりほかはないんだよ」
「じゃあ、ぼくはどうすればいいの?鳥にも人間にもなれないのなら、ぼくはどうすればいいの?」
 ピーターは泣き出しました。
「どっちでもない、はんぱものになるしかないね。おまえはこれから先すっと、鳥でもなけりゃ人間でもないものとして、生きていくんだよ。それが運命なら受け入れるしかないだろう?」

 ピーターは鳥の島で暮らすようになりましたが、鳥たちは友だちにはなってくれませんでした。そしてちょうど動物園の動物を観察するようにピーターを観察しました。自分たちのように虫そくちばしでつままず、鳥たちがソロモンじいさんの命令で持ってきてくれたパンを手で食べるのを、歓声をあげて見物するのです。

 それでもピーターは、ほがらかな心を持ち続けましたピーターは鳥たちのように、一日中歌ってみたいと思いました。けれど人間なのでそえはできません。そこでピーターは、あし笛をつくりました。そして風のひゅうひゅうなる音や、さざ波の音をお手本に練習しました。
 演奏は上達し、鳥たちでさえも、ピーターの笛の音か、自分たちの仲間が歌っているのか分からなくなりました。