アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」9
MIDI:チャイコフスキー 『くるみ割り人形』より トレパーク(ロシアの踊り)

Arthur Rackham, "A Christmas Carol"9.
MIDI : Pyotr Ilich Tchaikovsky, Russian Dance (Trepak) feom "The Nutcracker"
MIDI提供:Sketch



おはなし9

 現在のクリスマスの精霊は、今度はスクルージを、彼の甥のフレッドの家へと案内しました。そこには、甥の若い美しい妻、そして友人たちが集まっていました。
 甥は楽しそうに笑っていました。
「おじさんはね、それで、クリスマスなんかくだらないと言ったんだ。しかも本気でね!」
「それじゃ、ますます悪いじゃないの」
 甥の妻、スクルージの義理の姪は怒ったように言いました。
「おじさんは本当はおもしろい人なんだよ。愉快になろうと思えばなれるのに、そうならないんだ。でもいつも仏頂面をしているせいで、その報いは受けてるんだから悪口を言う気にはならないね。おじさんは僕たちを嫌いで、いっしょに楽しくやらないことに決めた。でもその結果、とても楽しい一時を、けっしてめぐり合えない愉快な仲間と会い損なったんだ。ぼくはおじさんが喜ぼうと、喜ぶまいと、毎年うちへ招待し続けるつもりだよ。だって、かわいそうだもの。それでも、おじさんは死ぬまで、クリスマスを悪くいい続けれるかもしれないけれど、毎年たずねていくつもりだよ」
 そして楽しいゲームが始まりました。実は、こっそりとスクルージもそのゲームに加わったのです。やってみれば、スクルージは誰よりもうまくゲームができました。

 楽しく過ごした後、外に出たスクルージは、精霊の衣から、おかしなものがのぞいているのを見ました。それは小さな足のようでした。スクスージが精霊に尋ねると、精霊は衣を広げました。
「さあ、見るがいい」
 精霊は、ひだの間から、二人の子どもを引き出しました。それは、みすぼらしくけがらわしい、みじめで哀れな男の子と女の子でした。黄色く、やせこけ、ぼろを身にまとい、オオカミのようにガツガツしているのに、腰を低くし、ひれ伏しているのです。
「男の子の名は“無知”、女の子の名は“貧困”だよ」
「この子たちを救ってやる場所はないのですか?」
「監獄はないのかね?貧民収容所はないのかね?」
 それはスクルージが言った言葉でした。
 その時、鐘が12時を打ちました。
 スクルージがあたりを見回すと、精霊の姿はありませんでした。12時を打つ鐘の最後の音が鳴り終わった時、スクルージは、ジェイコブ・マーレイの幽霊が言ったことを思い出し、顔を上げました。すると、長い衣をまとい、頭巾をすっぽりかぶった、重々しい影が、地をはう霧のようにこちらにやってくるのが目に入りました。