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アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」10
MIDI:チャイコフスキー 『くるみ割り人形』より コーヒー(アラビアの踊り)

Arthur Rackham, "A Christmas Carol"10.
MIDI : Pyotr Ilich Tchaikovsky, Coffee (Arabian Dance) feom "The Nutcracker"



おはなし10

 その影はゆっくりと、重々しく、音もなく近付いてきました。スクルージは思わず膝をつきました。この精霊が歩み寄るさまに、ただならぬ妖気を感じたからです。
「あなたは未来のクリスマスの精霊なのですか?」
 相手は答えず、ただ手で前方を指しました。
「あなたはこれまで起こったことではなく、こらから起こることの幻を見せてくださるのですね。そうなのでしょう?」
 頭をこっくりとでもしたか、黒衣の上の方のひだが一瞬縮みましたが、それ以上の答えはありませんでした。
「未来の精霊様、前の方たちよりもずっとあなたの方が恐ろしく感じます。でも、私のためを思っておいでになったのでしょう?どうかご案内ください」
 答えはなく、精霊は前方を指すと、来た時と同じようにゆっくりと歩き始めました。スクルージはそれについていきました。

 いつの間にか、ロンドンの町中に二人は立っていました。
 まわりは商人でいっぱいで、みんなせわしげに行き来したり、ポケットの中のお金をじゃらつかせたり、群がっておしゃべりしたりしています。これはスクルージにとっておなじみの光景でした。
 商人たちが何人か寄り集まっているそばで、精霊は立ち止まり、そちらの方を指したので、スクルージは近寄り、その話しに耳を傾けました。

「私もよく知らんのだよ。だが、とにかく知っているのは、あいつが昨夜死んだってことさ」
「やれやれ殺したって死なないやつだと思っていたがな」
「やつの金はどうなるんだろう?」
「知らんね。自分の会社にでも遺したんだろう。私に遺してくれたんじゃないことは確かだがな」
 この冗談に一同はどっと笑いました。
「やれやれずいぶんしけた葬式になりそうだな」

 スクルージは話しをしていた人々をみんな知っていました。どういうことなんだろうと精霊を見た時、今度は知り合いの金持ちの実業家で、町の有力者の二人を見かけました。スクルージは、商売上、この二人によく思われようと点数稼ぎにつとめていました。
「やあ、景気はどうだい? ところであの悪魔がくたばったそうだな」
「という話だな。それにしても今日は寒いな」
「クリスマスだからこんなもんさ」
 スクルージは、どうして精霊がこんなつまらない話に重点を置くのか分かりませんでした。死んだマーレイのことなのかか?でも、あれは過去のことでした。
 そして思いました。未来の自分はどこにいるのだろうかと。けれど、その姿は見つけることはできませんでした。