アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」8
MIDI:チャイコフスキー 『四季』より 12月「クリスマス」

Jessie Willcox Smith, "A Christmas Carol"8.
MIDI : Pyotr Ilich Tchaikovsky, The Seasons, Op.37b, No.12 December: Christmas



おはなし8

 スクルージが目を覚ますと、しばらくして午前1時の鐘が鳴りました。第二のクリスマスの精霊がやってくる時間です。
 ところがスクルージがベッドで待っていても、精霊が訪れる気配はりません。けれどその待っている間中、スクルージは明るい光に包まれていました。その光はどこから来るのだろうとたどっていくと、隣の居間からでした。
 開けるとどうでしょう。そこはヒイラギやヤドリギなど緑の葉がいっぱいに生い茂り、森のようになっていたのです。床には七面鳥やプラムプディングなど、クリスマスの料理が山のように積まれて玉座を作り、その前の安楽椅子にふんぞりかえっているのは、見るからに愉快で堂々たる巨人でした。
「私は現在のクリスマスの精霊だよ。さあ、わしの着物につかまるんだ」
 スクルージが精霊の着物につかまると、すべてのものが消え、クリスマスの町の大通りに立っていました。

 精霊がスクルージをまず案内してくれたのは、スクルージが雇っている事務員ボブ・クラチットの家でした。精霊は、家族が大勢いるのにたった4部屋しかない、貧しいボブの家を祝福しました。



 ボブの奥さんはクリスマス料理を作っています。そこへ教会へ行っていたボブが、息子のティム坊やを肩車して帰ってきました。坊やはかわいそうに、松葉杖をつき、両足に鉄の支えをしないと歩けないのです。

 貧しいけれど、とても楽しいクリスマスの食事の始まりました。
「みんな、クリスマスおめでとう。神様の祝福がありますように!」
 ボブが言うと、家族みんなの声がそれに唱和しました。
「みんなに、家族の祝福がありますように!」と、やや遅れてティム坊やの声もしました。
 ティム坊やは父親の隣の小さな肘掛け椅子に座り、ボブはその小さな手を、誰にも奪われないようにするかのように、ぎゅっと握りしめていました。

 スクルージは、これまでにないほどこの子が気になって仕方がありませんでした。
「教えてください。精霊様。ティム坊やは死んだりしませんよね?」
「貧しい家の炉辺に、ぽつんと開いた席が見える。使い手のない松葉杖が大事にとってあるのが見える。もしこの幻が、未来の手によって変えられr内のなら、あの子は死ぬだろう」
「まさか、そんなひどいことを。どうか助かると言ってください」
「この幻影を変えられるのは未来の精霊だけだ。わしの一族ではどうにもできん。でも、いいじゃないか。死ぬ運命なら、さっさと死んで、無駄メシ食いの数が減っていいじゃないか」
 スクルージは首をうなだれました。それは自分の言った言葉だったのです。



ジェシー・ウィルコックス・スミス 『ディケンズの子どもたち』より ティム坊や
Jessie Willcox Smith, "The Children of Dickens"

※ウィルコックス・スミスは、ディケンズ著『デヴィッド・コッパフィールド』の絵も描いています。