アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」5
MIDI:ドリーブ 『シルヴィア』より 「ピチカート」

Arthur Rackham, "A Christmas Carol"5.
MIDI : Leo Delibes, Pizzicato from "Sylvia",



おはなし5

 スクルージが目を覚ました時、あたりは真っ暗でした。時計が時間を打ちます。12回。スクルージが寝のは午前2時、けれどあたりは昼の12時は見えません。やはり夜の12時なのです。
 またたく間に時間が過ぎ、マーレイの亡霊が、第一の精霊がくると言った午前1時となりました。
 突然、スクルージのベッドのカーテンが引き上げられ、約束の人物が現れました。
 それは一見して、子どものような背格好をしていました。けれど見方によっては老人のようにも見えました。髪は老人のように真っ白で、けれど顔にはしわ一つなく、みずみずしいバラ色をしていました。
「わたしは過去のクリスマスの精霊です。さあ、立って、私と一緒に来るのです」
 そう言ってスクルージの手を引く力はとても強く、子どもでも老人でもありませんでした。そして驚いたことに精霊は、スクルージを連れ、高い所にあるはずの壁を通り抜け、過去の世界へと連れて行ったのです。

 懐かしい過去の風景。スクルージは、学校にいる少年時代の自分を見ました。それはクリスマスで、ほかの子どもたちはみんな家族が迎えに来てくれたのに、たった一人残され、本を読んでいる孤独な少年でした。
 その時、ドアが開きました。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!迎えに来たのよ!」
 それは幼い妹の姿でした。兄妹は嬉しそうに馬車に乗っていき、家へと帰っていきます。優しくて、かよわかった妹…。
「妹さんは結婚してから亡くなったのでしたね。たしかお子さんがあったはずですが」
 精霊が言いました。
「ええ、一人、男の子がいます」
 そうスクルージは言いながら、クリスマスのお祝いと食事を誘いに来てくれた甥を追い返したことを思い出しました。

 今度は、青年に成長したスクルージが年季奉公した店へと行きました。その店の主、フェジウィッグじいさんは、クリスマスだからと、早々に店じまいをすると、スクルージたち奉公人や近所の人たちを集めて、ささやかなパーティを開きました。
 陽気にみんな踊り歌い、かつらをつけたフェジウィッグじいさんは、奥さんとぴょんぴょんと楽しく踊りました。見ている現在のスクルージも楽しくなりました。
「あんな他愛無いことで、おろかな人間をありがたがらせているのですよ」
 クリスマスの精霊は言いました。
「他愛無いですって!」
「その通りでしょう?フェジウィッグは3、4ポンドのはした金を使ったにすぎない。それなのに、みんなからほめられているのですよ」
「金じゃありませんよ」
 そうむきになってフェジウィッグをかばったスクルージの声は、現在のスクルージではなく、楽しそうに踊っていた昔のスクルージの声になっていました。そしてクリスマス休暇を願い出た従業員のボブ・クラチットに、給料を減らすといったことを思い出しました。