アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」4
MIDI:リスト 超絶技巧練習曲第5番 「鬼火」

Arthur Rackham, "A Christmas Carol" 4.
MIDI : Franz Liszt, Transcendental Etudes S139 No.5 "Feux follets" in Bb Major,



おはなし4

 スクルージの前に現れたジェイコブ・マーレイの幽霊は、体にまきつけた重い鎖をじゃらじゃらさせながら、更に言いました。
「わしに残されている時間はわずかしかない。わしが今夜ここへ来たのは、お前にはまだわしのようにならずにすむチャンスと望みがあるということを告げるためだ」
「ありがとう。あんたはいつもわしによくしてくれたもんだ」
「お前のところに、これから三つの精霊がやってくるはずだ。それがお前のチャンスと望みだよ。第一の精霊は明日の午前一時の鐘がなった時、やってくる。第二の精霊は翌日の同じ時刻に。第三の精霊は翌日の真夜中の十二時、最後の鐘がなり終わった時に現れる。わしがおまえに合うことはもうない。だから今わしたちが話したことを忘れるんじゃないぞ。お前のためだからな」
 そして幽霊は少しずつ後ずさりをしてスクルージから離れていきました。一歩さがるごとに、窓は少しずつ開いていき、幽霊がそこに行き着いた時は、大きく開けはなれていました。
 幽霊はこっちへ来いとスクルージを手招きしました。
 窓に近付いたクルージは 外が騒がしいのに気付きました。ごうごうという風のうなり声、それは嘆く声、悔やむ声が入り乱れての不協和音でした。言いようのないほど悲しげな、おのれを責めて泣き叫ぶ、さまざまな声でした。
 マーレイの幽霊はちょっと耳を澄ましてから、一緒になって泣き声をあげ、真っ暗な寒々とした夜の中に飛んで息ました。
 スクルージはその後を追い、窓の外を見ました。
 空には、あちこちせわしなく飛びまわりながら泣き声をあげている幽霊がいっぱいいました。どれもこれもマーレイと同じように鎖で縛られていて、中には一緒につながれているのもおりました(これは汚職役人でしょうか)。その中にはスクルージの知り合いもたくさんいました。
 やがて幽霊たちが消えて霧になったのか、それとも霧が幽霊を包んでしまったのか、姿も声も消え、スクルージが家に帰ってきたと同じ、霧の夜になりました。
 スクルージは窓を閉め、幽霊が入ってきたドアを確認しました。鍵はかかったままでした。スクルージは次第に眠くなり、着替えもせずに寝てしまいました。