絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」45
Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 45

MIDI:チャイコフスキー 『白鳥の湖』より 「ハンガリーの踊り」(チャールダーシュ)
Pyotr Ilich Tchaikovsky, "Swan lake", Danse hongroise (Czardas).




 
おはなし45

 その時突然大きな笑い声が見物人の間に起こりました。メイミーと仲良しになったブラウニーが到着して、自分も公爵にお目通りする権利があるとがんばっているのです。
 メイミーは自分の友だちが、まず見込みはないがらも、どういうことになるか見ようと、一生懸命に首を伸ばしました。メイミーだけでなく、そこにいる誰もが何の期待も抱いていませんでしたが、ブラウニーだけは自信満々で公爵の前に案内されました。
 医者は公爵の胸に気もなさそうにさわり、機械的につぶやき始めました。
「だめだ、ぜんぜん──」、そう言いかけてふと口をつぐみました。
「これはいったい…?」と医者は叫び、公爵の胸に耳をあてました。
 公爵の心はまさしく燃え上がったのです。
 やがて医師は公爵に深々と一礼し、得意げに大声でいいました。
「公爵閣下、私は今こそ閣下が恋をしておいでだとご報告申し上げることを光栄に存じます」

 この後、どんな騒ぎになったか想像もつかないでしょう。ブラウニーは腕を大きく広げ、公爵はその中に飛び込みました。女王は侍従長の腕に飛び込み、女王様にならえとご貴婦人たちは紳士がたの腕に飛び込みました。こうして一瞬のうちに五十組の結婚が整いました。男と女が互いの相手の腕に飛び込むのが、妖精の結婚式なのです。
 トランペットが響き渡り、月も顔を出した。そして月の光の中を、何千組ものカップルが踊りだしました。中でも一番晴れやかな眺めは、キューピッドたちが頭からピエロの帽子をむしりとって、空高く投げる様子でした。

 その時です。めいみーがまかり出て、何もかも台無しにしてしまったのは。
 どうして小さなメイミーを責められるでしょうか。友だちの幸運に興奮し、有頂天になって思わず飛び出してしまったのです。
「すごいわ、ブラウニー!おめでとう!」
 この一声で、あらゆる動きが止まってしまいました。身じろぎするものはなく、音楽はやみ、灯は消えました。すべては一瞬の出来事でした。

 メイミーは恐ろしい危険がせまっているのに気付きました。いきり立った群集のざわめきが聞こえ、何千もの剣がきらめくのを見ると、メイミーは恐怖のあまり悲鳴をあげて逃げ出しました。