Track Down This Murderer 2


エドマンド・デュラック 「鐘のうた」(エドガー・アラン・ポーの詩より)
Edmund Dulac, The Bells (Edgar Allan Poe's poem)



CHRISTINE
The tears I might have shed
for your dark fate,
grow cold, and turn to tears of hate ...


RAOUL
Christine, forgive me
please forgive me ...
I did it all for you,
and all for nothing ...


CHRISTINE
(looking at the Phantom but to herself)
Farewell, my fallen idol
and false friend ...
One by one
I've watched
illusions shattered ...

PHANTOM
Too late for turning back,
too late for
prayers and
useless pity ...


RAOUL
Say you love him,
and my life is over!


PHANTOM
Past all hope of cries for help:
no point in fighting


RAOUL
Either way you choose,
he has to win ...


PHANTOM
For either way you choose,
you cannot win!

So, do you end your days with me,
or do you send him to his grave?


RAOUL
Why make her lie
to you to save me?

CHRISTINE
Angel of Music ...


PHANTOM
Past the point of no return ...

RAOUL
For pity's sake,
Christine say no!


CHRISTINE
... why this torment?

PHANTOM
The final threshold ...

RAOUL
Don't throw your life
away for my sake!


CHRISTINE
When will you see reason ...?

PHANTOM
His life is now the prize
which you must earn!


RAOUL
I fought so hard
to free you ...


CHRISTINE
Angel of Music ...

PHANTOM
You've passed
the point of no return!


CHRISTINE
... you deceived me
I gave you my mind blindly ...

PHANTOM
You try my patience,
Make your choice!


CHRISTINE
Pitiful creature of darkness,
What kind of life have you known?
God give me courage to show you,
You are not alone...


(Kisses him)

Mob
Track down this murderer,
he must be found!
Hunt out this animal,
who runs to ground!

PHANTOM
Take her - forget me -
forget all of this ...
Leave me alone -
forget all you've seen ...
Go now - don't let them find you!
Take the boat, swear to me, never to tell
The secret you know, of the angel in hell!
Go ...Go now -
go now and leave me

(Raoul and Christine move off towards the boat.
The Phantom looks mockingly at his mask.
The musical box starts up magically,
and he listens to it)


PHANTOM
Masquerade ...
Paper faces on parade ...
Masquerade ...
Hide your face
so the world will never find you ...

(Christine re-enters and walks slowly towards him.
She takes off her ring and gives it to the Phantom)


PHANTOM
Christine, I love you ...

(She hurries off)

CHRISTINE
(In the distance, to Raoul,
as the boat pulls away in the shadow)

Say you'll share with me
one love, one lifetime


RAOUL
Say the word
and I will follow you...


CHRISTINE
Share each day with me,
each night, each morning...



PHANTOM
(looking after her)
You alone, can make my song take flight
It's over now, the music of the night
...




エドマンド・デュラック 「ヘレンに」(エドガー・アラン・ポーの詩より)
Edmund Dulac, To Helen (Edgar Allan Poe's poem)



クリスティーヌ
あなたの暗い運命に対して
流すはずだった私の涙が
だんだんと凍りついていき
憎しみの涙へと変わっていく…

ラウル
クリスティーヌ 許してくれ
どうか僕を許してくれ
すべて 君のためにしたことだった
それなのに すべてを無駄にしてしまった

クリスティーヌ
(ファントムを見ながら、彼ではなく自分自身に語るように)
さようなら 私の堕ちた偶像 偽りの友
一つ一つ 私の幻想は崩れていく

ファントム
背を向けるには もう遅すぎる
祈ることも もう遅すぎる
無用な憐れみも もう…

ラウル
君が彼を愛していると言えば
僕の人生は終わったも同然だ!

ファントム
助けを求め 叫んでも 意味はない
戦っても 無駄だ

ラウル
君がどちらを選ぼうと
彼が勝つことになっている…

ファントム
お前が どちらを選ぼうと
私に 勝つことはできない!

さあ 死ぬまで私と共にいるか
彼を墓場に送るかだ!

ラウル
僕の命を救うために
なぜ 彼女に嘘をつかせるんだ?

クリスティーヌ
音楽の天使…

ファントム
もう引き返すことはできない…

ラウル
頼む クリスティーヌ
ノーと言ってくれ!


クリスティーヌ
なぜ こんなに苦しめるのですか?

ファントム
最後の一線…

ラウル
僕の命を救うために
君の人生を犠牲にしてはいけない!

クリスティーヌ
こんなこと なんの意味があるのでしょう?

ファントム
彼の命は今や
お前が勝ち取らねばならない賞品なのだよ!

ラウル
僕は必死で戦った
それは 君を自由にするためだったのに…

クリスティーヌ
音楽の天使…

ファントム
お前は
もう引き返すことはできない…

クリスティーヌ
あなたは 私を騙したのですね
私は…心からあなたを信じていたのに

ファントム
私は 辛抱強くない
さあ 選ぶのだ!


クリスティーヌ
闇に潜む哀れな生き物
あなたはどんな人生を歩んできたの?

神様 どうか彼に示す勇気を
私にお与えください

あなたは一人ぼっちじゃない


(ファントムにキスする)



追っ手
人殺しを追いかけろ!
探し出せ!
怪物を捕まえろ!
奴は地下に逃げ込んだ!


ファントム
彼女を連れて行け 私のことは忘れろ
何もかも 忘れろ
私を一人にしてくれ
ここで見たことは 何もかも忘れるんだ
さあ 行くんだ 奴らに見つからないように
あの船に乗って行け
決して口外しないと誓え
お前達の知る 地獄の天使の秘密を!
行け さあ早く
さあ 行くんだ 私にかまうな!



(ラウルとクリスティーヌは、船の方へと去っていく。
ファントムは嘲るように自分の仮面を眺めている。
その時オルゴールがひとりでに鳴り始め、ファントムはそれを聴く)



ファントム
仮面舞踏会

仮面たちの集会・・・

仮面舞踏会

顔を隠そう

誰にも見つからないように・・・


(クリスティーヌが戻ってきて、ファントムの方にゆっくりと歩いてくる。
そして自分の指から指輪を抜き取ると、ファントムに差し出す)



ファントム
クリスティーヌ 愛してる


(クリスティーヌは ファントムから去る)


クリスティーヌ
(遠くで、船が影の中、動き出し
クリスティーヌは ラウルに向かって歌う)

言ってほしいの
私と共に分かち合うと

ラウル
その一言で
僕は 君についていく…


クリスティーヌ
共に分かち合いましょう…

巡り来る日々を…

巡り来る夜… 巡り来る朝を
……



ファントム
(クリスティーヌが行ってしまうのを 眺めながら)
ただ一人 お前だけが
私の音楽を羽ばたかせてくれた

今 夜の音楽の
すべてが終わった






エドマンド・デュラック 「海の都市」(エドガー・アラン・ポーの詩より)
Edmund Dulac, The city in the Sea (Edgar Allan Poe's poem)



All I Ask of you
The Music of the night
(優しいピアノの音色をどうぞ♪)


 思いが交錯する三重唱、映画版ではこのシーンが一番格好よかったです。特にラウルとファントムの、美しいテノールとロック調の歌い方、まったく違う声質なのに、ぞくぞくするほど色っぽかった。もっと長く聴きたかったほど。個人的には、三重唱は映画版が一番好きです。
 同じこの場面では、CDで聴いたオリジナル・ロンドン・キャストでのマイケル・クロフォードの三重唱での常軌を逸した雰囲気の高い声も良かった。最後に“It's over now, the music of the night(今 夜の音楽の すべてが終わった)”と歌う声の美しいこと、最後に高らかにどこまでも伸びていく声、少し前までの狂気は消え、ひたすら美しく、まさに音楽の天使の最後の歌でした。

 三重唱で“The Point of No Return”の音楽と歌詞が再び使われ、クリスティーヌの悲しみと怒り、ラウルの叫びも無視して、ファントムは“The Point of No Return”を歌います。

“The Point of No Return(もう引き返すことはできない)”
The final threshold ...(最後の一線…)”

 “The Point of No Return”といえば、冷たくラウルに言いは夏ファントムの言葉の中に、こんなものがありました。

PHANTOM
Past all hope of cries for help:
no point in fighting

(助けを求め 叫んでも 意味はない 戦っても 無駄だ)

 日本語にすると分かりませんが、“no point(得点にならない)”という言葉が入っているのです。細かい所まで、本当に素晴らしいです。


 映画版と舞台版は、歌詞は同じですが、セリフの部分で一部違いがあります。ラウルとクリスティーヌに、船に乗ってこの場を去るように言うファントムの、“Take the boat”以降のセリフです。

【舞台版】
PHANTOM
Take the boat - leave me here -
go now, don't wait . . .
Just take her and go -
before it's too late . . .
Go . . .Go now -
go now and leave me!
(あの船に乗って行け
私はここにおいて
さあ 行くんだ 急いで
彼女を連れて行け
何もかもが手遅れになる前に
行け さあ早く
さあ 行くんだ 私にかまうな!)

【映画版】
PHANTOM
Go now - don't let them find you!
Take the boat, swear to me, never to tell
The secret you know, of the angel in hell!
Go ...Go now -
go now and leave me

(あの船に乗って行け
決して口外しないと誓え
お前達の知る 地獄の天使の秘密を!
行け さあ早く
さあ 行くんだ 私にかまうな!)


 舞台版では、ファントムはクリスティーヌからキスされた後、自らラウルの縄を切り、上記セリフはラウルに言っていますが、映画版ではクリスティーヌがラウルの縄をほどいていて、上記セリフは、ファントムは二人に言っているのです。舞台版のファントムが縄をほどいた方がよかったような気がしますが、セリフは映画版の“地獄の天使”が入っていた方がインパクトがあって好きです。“never to tell(決して口外するな)”の“tell”と、“angel in hell(地獄の天使)”の“ hell”が韻を踏んでいて素敵ですし。


(to be continued)




くちびるは、からだの持つ小さな傷口。
二つの傷口をあわせると、一つの血がかよう。

流れる血は川をつくる。
その川の名を“期待”という。

皆川博子著 『死の泉』より



フェルナン・クノップフ 「赤い唇」
Fernand Khnopff, Les lèvres rouges 1897.