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ルイ・イカール 「トスカ」 Louis Icart, Tosca, 1928. アンドレ 観客はあなたを必要としています! フイルマン 我々もあなたが必要です! カルロッタ あなたちには私よりも大事な あの小娘がいるじゃないの? アンドレ/フィルマン シニョーラ とんでもございません! 世界はあなたを求めております! プリマドンナ 舞台のファースト・レディ! 崇拝者はあなたの前にひざまずき あなたに歌ってほしいと懇願しています! アンドレ 崇拝者たちがあなたの名前を叫んでいるのに あなたは舞台を去ることができるのですか? フイルマン 考えてください 彼らが どれほどあなたを 崇めているかを 二人 プリマドンナ どうかもう一度 あなたの歌で 我々を魅了してください! アンドレ 考えてください あなたの素晴らしい芸術について フイルマン そして 劇場のまわりには長蛇の列が! アンドレ/フィルマン 成功間違いなしの舞台を 棒に振るおつもりですか? 歌って! プリマドンナ! もう一度! ラウル クリスティーヌは 天使のことを話していた! カルロッタ プリマドンナ あなたの歌は よみがえるのよ! アンドレ/フィルマン 考えてください 観客のことを! カルロッタ ひどいめにはあったけれど そう 観客はあなたを待っているのよ! ジリー あの娘は声を聞いたのよ 音楽の天使の声を アンドレ/フィルマン あなたの声を聞いた者は 天使の声を聞いたと思うでしょう! カルロッタ 考えてもみなさい! 鳴り止まない歓声を! ラウル これは クリスティーヌの音楽の天使がしたことでは? アンドレ これで私たちはオペラを上演できる! フイルマン そしてカルロッタは スポットライトを! カルロッタ そう スポットライトの光が あなたを導く! メグ オペラ座の亡霊は 天使なの? それとも狂人? ラウル 天使なのか 狂人なのか? アンドレ/フィルマン 主演女優のご機嫌取りは 厄介なものだ! カルロッタ プリマドンナ あなたの歌は不滅よ! メグ 地獄からの声? それとも天からの? ジリー 天は救ってくれる けれどそれを疑うものは… カルロッタ あなたは もう一度歌うのよ そして やむことのない喝采をあびるの! ラウル 命令! 警告! 気がふれたようなな要求! ジリー このミス・キャストは 恐ろしい破滅を招くにちがいないわ… アンドレ/フィルマン 主演女優の涙 ののしり 気のふれた奴からの要求 次々と起こるとはな! メグ 成功?破滅? どちらが彼女を待ち受けているの? カルロッタ 考えてもみなさい! 最後のアンコールで あなたがどんなに輝いているか! 歌って! プリマドンナ もう一度! ジリー ああ 愚か者よ 彼の警告をあざけるなんて! ラウル きっと 彼女のために… メグ きっと 彼は報復に来るわ アンドレ/フィルマン きっと この先も もめごとがあるだろう これよりも ひどいもめごとが! ジリー 考えてください! この要求を拒否する前に ラウル こんな要求は 拒否しなくては メグ もし 脅迫と要求を 無視したりしたら! アンドレ/フィルマン 失踪した挙句 パトロンと寝ていたコーラスガールを 歌姫が 許すだろうか? ラウルと あのソプラノの歌手の 絡み合う愛の二重唱! まあ 彼は反論するだろうが あの娘と一緒にいたに違いない! メグ/ラウル クリスティーヌを守らねば! カルロッタ (イタリア語) ああ 幸せな私! まだ見捨てられてなかったのだわ! アンドレ/フィルマン こんなこと 劇には決してできないが 大きな声で 外国語で歌ったら それだけで 観客が大喜びする 完璧ななオペラになる! ラウル 彼のゲームは終わりだ! ジリー 勝ち目のないゲーム! ラウル 五番ボックス席から 新たな一戦が始まろうとしている… ジリー そのために このオペラに彼が呪いをかけたなら メグ だけど このオペラに彼が呪いをかけたなら アンドレ/フィルマン プリマドンナ 世界はあなたの足元にひれ伏します 国中の人があなたを待っています それを裏切ったりしてはいけません! カルロッタ 有名なプリマドンナに ふりかかるストレスはたいへんなものよ! 恐ろしい病気 咳 風邪 くしゃみ! けれど 喉が渇ききっている時でさえ 完璧なオペラを目指して 最高音まで上りつめるのよ! メグ/ジリー この結末が恐ろしいわ! ラウル クリスティーヌが小姓を演じ カルロッタが伯爵夫人を演じる… ジリー 怖いもの知らずな… メグ また何かが起こったら… 全員 舞台に照明を! 長い信頼関係! 歌って! プリマドンナ もう一度! ファントム そうか 宣戦布告というわけか! もし要求が聞き届けられなければ お前たちが 想像を絶する惨劇が起こることだろう! 全員 もう一度! 注)歌詞は舞台版です。映画は少し削られています。 |
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この「プリマドンナ」は、イタリアオペラ調の、のびやかで明るい美しい曲で、名曲揃いの『オペラ座の怪人』の中で、主役の3人(ファントム、クリスティーヌ、ラウル)以外のが歌う唯一の曲(ラウルも出てきますがこの歌では主役ではない)です。 歌詞といえば、たいして意味がないのです。主役を奪われ、不愉快な手紙を受け取り、すっかりお冠な歌姫カルロッタを、オペラ座の2人の支配人、アンドレとフィルマンが、懸命に持ち上げて、その気にさせるという、本当に他愛もない歌で、2人の支配人が歌っている通り、劇にしたら本当にたいしたことがないのですが、イタリア語にして、堂々たる歌姫が歌ったら、それなりのオペラになって、陶酔しまうのでしょう。 この3人の歌に、クリスティーヌとファントムについて案じる、ラウル、マダム・ジリー、メグの3人が絡んできます。 6人で歌っていますが、カルロッタとアンドレとフィルマンの3人、ラウルとマダム・ジリーとメグの3人のグループは、別々のことを考えていながら、言葉はきちんと繋がっています。 GIRY She has heard the voice of the angel of music (あの娘(クリスティーヌ)は声を聞いたのよ 音楽の天使の声を) ANDRE/FIRMIN Those who hear your voice liken you to an angel (あなた(カルロッタ)の声を聞いた者は 天使の声を聞いたと思うでしょう!) MEG Is this ghost an angel or a madman? (オペラ座の亡霊は 天使なの? それとも狂人?) RAOUL Angel or madman? (天使なのか? 狂人なのか?) RAOUL Surely, for her sake ... (きっと 彼女のために…) MEG Surely he'll strike back ... (きっと 彼は報復に来るわ) ANDRE/FIRMIN Surely there'll be further scenes - worse than this! (きっと この先も もめごとがあるだろう これよりも ひどいもめごとが!) 言葉の反復や、一つの単語の引き継ぎ方が、素晴らしく上手で、訳しているだけで陶酔してきます。 それからこの歌には、“think”という単語が何度も繰り返されます。 FIRMIN Think of how they all adore you! (考えてください 彼らが どれほどあなたを 崇めているかを) ANDRE Think of your muse (考えてください あなたの素晴らしい芸術について) ANDRE/FIRMIN Think of your public! (考えてください 観客のことを!) CARLOTTA Think of their cry of undying support! (考えてもみなさい! 鳴り止まない歓声を!) CARLOTTA Think how you'll shine in that final encore! (考えてもみなさい! 最後のアンコールで あなたがどんなに輝いているか!) GIRY Think, before these demands are rejected! (考えてください! この要求を拒否する前に) “Think”、もしくは“Think of”といえば、『オペラ座の怪人』の名曲“Think of me”と繋がります。 そして、この歌の中で繰り返されるこの歌詞 Sing, prima donna, once more! (歌って! プリマドンナ もう一度!) この“Sing”と“Think”は、韻を踏んでいて、聞いていて、耳に心地よいのです。 “Sing”といえば、『The Phantom of The Opera』で、ファントムがクリスティーヌに歌うこの歌詞とも繋がります。 PHANTOM Sing ... Sing for me... Sing, my angel of music! Sing for me! (歌え… 私のために歌え… 歌え 私の音楽の天使よ! 私のために!) ちなみに、“Sing for me”と“Think of me”も、繋がっています。 歌と歌が、言葉と言葉が、一つのミュージカルの中で、いくつも繋がりあっているのです。 本当に日本語にしてしまうと、もったいない箇所がいくつもあります。 GIRY Think, before these demands are rejected! (考えてください! この要求を拒否する前に) RAOUL I must see these demands are rejected! (こんな要求は 拒否しなくては) MEG if his threats and demands are rejected! (もし 脅迫と要求を 無視したりしたら!) 私の日本語訳だとさっぱり分かりませんが、何気なく、最後の“rejected”という言葉が繰り返されて、素晴らしいのです。 最後に、おもしろかった歌詞について。アンドレとフィルマンが一緒に歌うところです。 ANDRE/FIRMIN Who'd believe a diva happy to relieve a chorus girl, who's gone and slept with the patron? Raoul and the soubrette, entwined in love's duet! Although he may demur, he must have been with her! (失踪した挙句 パトロンと寝ていたコーラスガールを 歌姫が 許すだろうか? ラウルと あのソプラノの歌手の 絡み合う愛の二重唱! まあ 彼は反論するだろうが あの娘と一緒にいたに違いない!) 勝手に妄想をたくましくしていますが、当たらずとも遠からじ。『The Music of the night』のファントムの独唱は、アンドレとフィルマンの妄想以上に、官能的でした。 |