アーサー・ラッカム 「クリスマス・キャロル」2
MIDI:ショパン ピアノソナタ2番『葬送』 第3楽章「葬送行進曲」

Arthur Rackham, "A Christmas Carol" 2.
MIDI : F. Chopin, PianoSonate No.2 Op.35 in Bb Minor 3rd Mvt. "March Funebre",



おはなし2

 やっと事務所を閉める時間になりました。スクルージは監房のような部屋で待ちかまえている事務員に黙ってうなずきました。事務員は待っていましたとばかりに、ロウソクを消し、帽子を被りました。
「明日は1日休みたいと言うんだろうな」
「はい、差しつかえなければ」
「差しつかえは大いにある。しかも不公平だ。もしそれで、お前の給料を1日分、私がひこうものなら、お前は不当に扱われたと思うに決まっとるだろ」
 事務員は弱弱しく笑いました。
「でも1年に1度のことですから」
「仕方あるまい。だが、次の朝は、その分早くくるんだぞ」
「かしこまりました」と事務員は約束しました。
 
 閉店後、スクルージは行きつけの陰気な店で、陰気な夕食を取り、備え付けの新聞を読むと、余った時間は預金通帳を眺めてつぶし、家に帰って寝ることにしました。それがごうつくばりのスクルージのクリスマス・イヴの過ごし方でした。
 袋小路にある陰気な家に戻ったスクルージは、玄関のドアを見てギクリとしました。、ドアのノッカーが、7年前に死んだ、会社の共同経営者だったマーレイの顔になっていたのです。スクルージがじっと見つめると、しばらくしてそれは元のノッカーに戻りました。
 気味悪く思ったものの、鍵を開けて中に入ると、真っ暗な階段を霊柩車が過ぎ去ったような気がしました。
 階段は燭台の光だけではとても暗く不気味でしたが、ケチなスクルージは暗闇は安上がりと気にしませんでした。けれど、やはり先ほどのドアの顔が気になって、一通り、家を確認しました。居間、寝室、物置、異常なし。テーブルの下にも、ベッドの下にも誰も隠れていませんでした。


Marley