絵画:アーサー・ラッカム 「ケンジントン公園のピーター・パン」43
Arthur Rackham, "Peter Pan in Kensington Gardens" 43

MIDI:ウェーバー 「舞踏への勧誘」
W.A.Mozart, Carl Maria von Weber, Invitation to the Dance.




 
おはなし43

 妖精の舞踏会が開かれる場所を見つけるのは簡単です。招かれているお客様さまが靴を濡らさずにすむように、妖精の大勢住んでいるところから会場まで必ずリボンがしかれているからです。
 メイミーがリボンに沿って歩いていると、水溜りの泥の中に1人の妖精が溺れているのに出会いました。メイミーが助けに行くと、この小さな妖精のお嬢さんは最初怖がっていましたが、じきにメイミーの手の平で陽気におしゃべりをはじめました。
 この妖精はブラウニーという名前で、街角で歌っている貧しい歌手にすぎないけれど、それでも舞踏会に顔を出して、公爵さまの凍った心をとかせないか、やってみるつもりだと言いました。
 ブラウニーは残念ながら美しい妖精たちの中で、不器量な方で、自分でもそのことを分かっていました。でもメイミーは、自分のお父さんがどんな美人を見た後でも、お母さんを見るとほっとすると言ったことを思い出して、ブラウニーに話すと、ブラウニーには大喜びして、舞踏会場へと一目散に走っていきました。メイミーに「女王さまに見つかると危ないからついてきちゃだめよ」と言い残して。
 けれどメイミーは好奇心を抑えられず、すばらしい明かりのもれる場所へと、しのび足で近付き1本の木に隠れてのぞいてみました。

 会場には公爵や医者の姿も見え、公爵の前に美しい妖精のご婦人が現れるたび、医者は公爵の胸に触って、「だめだ、ぜんぜんつめたい」と言い続けていました。ピエロの帽子をかぶったキューピッドたちはその声を聞くたびに、面目なげにうなだれました。
 女王さまは不機嫌になるばかり。公爵さまに受け入れられなかったご婦人は泣き出し、公爵もわびしげな表情をしています。

 そんな会場の雰囲気に、妖精たちはその夜、ダンスをする気になれないほど、心が重くなっていました。
 悲しい時には踊り方を忘れてしまい、楽しくなると思い出すのが、妖精たちのくせなのです。
 妖精は決して「楽しいね (We feel happy) 」とは言いません。そういう気持ちの時には「踊りたい気分ね (We feel dancey) 」と言うのです。