絵画:アーサー・ラッカム 『マザー・グース』より 「ジャックとジル」
MIDI:ショパン ワルツ第6番 「子犬のワルツ」

Arthur Rackham, "Jack and Jill" from 'Nursery Rhymes'.
MIDI : F. Chopin, Valse No.6 Op.64-1 in Db Major "Minute Valse".




 Jack and Jill went up the hill
  To fetch a pail of water;
Jack fell down and broke his crown,
  And Jill came tumbling after.

 Up got Jack, and home did trot,
  As fast as he could caper,
 To old Dame Dab, who patched his nob
  With vinegar and brown paper.


 ジャックとジルは おかにのぼった
  バケツにいっぱい みずくみに
 ジャックはころんで あたまをわった
  つられてジルも すってんころりん

 ジャックはようよう おきあがり
  うちをめざして いちもくさん
 おっかさんは ジャックのあたまに
  おすのしっぷを ぺたんとはった

                     (谷川 俊太郎 訳)



 ジャックとジルの兄妹が丘に水を汲みに行く途中で、まず兄が丘から転がり落ちて、次に妹が転がり落ち、2人で母親の元に帰るというかわいらしい唄で、マザーグースの中でも、もっともオピュラーなものの一つです。
 けれど、最初にこの2人が文献に登場した時には、JadkとGillという少年2人でした。このジャックとギルは、イギリス国王ヘンリー8世に仕えたウルジー枢機卿と補佐役のターベス司教でるという説、また2人は北欧神話のヒュキ(Hyuki)とビル(Bil)であり、水汲みしていたところを月にさらわれ、満月になると2人の姿が月面に映るという説など、様々なものがありますが、このヒュキとビルもまた男性同士です。
 これが男女になるのは、1800年前後で、ジャックとジルは、少年少女だけではなく、様々な年齢の男女に描かれているようです。
 このHPでは、ウィルビーク・ル・メールの挿絵のものも取り上げていますが、こちらも少年少女です。

 'Jack and Jill'といえば、『若草物語』を書いたルイザ・メイ・オルコット (Louisa May Alcott, 1832-1888) に同タイトル「Jack And Jill」(1880)という小説があります。日本では現在絶版となっていますが、『村のセレナーデ』(岩崎書店 世界少女名作全集29)と『ジャックとジル』(集英社 マガレット文庫41)で、読んだことがあります。
 自然に囲まれた小さな村に、お隣同士の仲のいいジャックとジルという少年少女がいました。ジルの本名はジャニーというのですが、ジャックとあまりに仲良しなので、マザーグースの「ジャックとジル」にちなんでこう呼ばれたのです。
 ある冬の日、村の子どもたちは、そり滑りを楽しみ、ジルはジャックのそりの後ろに乗って滑っていました。ジルは、誰よりも勇敢な、仲良しのジャックが自慢でした。けれど、仲間達の中で誰よりも危険なことができるという、小さな虚栄心をジルが起こしたことから、事件が起こります。急な坂を滑っているうちに、そりが柵に衝突して、二人は大怪我をしてしまったのです。
 後悔し、お互いを心配しあうジャックとジル。ベッドで寝たきりの二人が、お互いの部屋をロープで結んで、鈴のつけたバスケットをそれに通して、文通するのがとても素敵でした。



ルイザ・メイ・オルコット著 「ジャックとジル」(集英社 マガレット文庫41)